当時のチェコスロバキア軍に制式採用された軍用時計は、ロンジン、エテルナ、レマニアの3社が製造を担っていた。
それらは、大振りなクッションケースに判読性の高いフルアラビアインデックス、ブラック文字盤といった共通した仕様をもち、主に航空部隊のパイロットに支給されていたようだ。
■SS(40mm径)。手巻き(Cal.15.94、15石)。1930年代製
ここで取り上げているのは、そんなチェコスロバキア軍の軍用時計によく似たロンジン製の個体だ。
いちばんの違いは、アラビアインデックスが内外に二つあり、外側部分を12時位置のリューズで回転させることで、時刻をメモリーできる機能が付加されている点だ。このモデルが軍用として採用されたのかは不明だが、ロンジンでは同様のモデルの小径版も製造していた記録が残っている。
搭載されているCal.15.94はロンジンが20世紀初頭に懐中時計用として開発したムーヴメントで、歯車がすべて独立した懐中時計の伝統的技法を取り入れている。
チラネジやブレゲヒゲを採用しており、仕上げは粒金メッキ+ナシ地(表面をざらつかせたベーシックな加工)。ナシ地仕上げのアンティークは状態が良いものでないと使い物にならないが、この個体は軍用であるにもかかわらず奇跡的に美しいコンディションをキープしている。
『LowBEAT』No.2掲載(2012年10月発行)