このクッションケースのノンオイスターモデルは、驚いたことに文字盤上に“ROLEX”という文字ではなく、代わりに“MITSUKOSHI”の名が表記されている。
なんとあの老舗百貨店、三越の名を冠するというレア中のレアモデルなのである。
■SV(27mmサイズ)。手巻き(Cal.11 1/2、15石)。1930年代製
いまでは考えられないが、かつてはロレックスより老舗宝飾店のほうがネームバリューがある時代があった。そのため宝飾店の名が入ったいわゆるショップウオッチが存在したのだが、その多くはロレックスと宝飾店名を併記したダブルネーム仕様だ。
それに対してこのモデルでは、文字盤上にロレックスの名はなく、その点でもかなり珍しい。
ブランド名を伏せてまで、なぜ三越の名前にしたのか、しかも、顧客に販売されたモノなのか、それとも三越が社用の贈答品として製作したものなのかということさえもわかっていない。
ただひとつ言えることは、日本腕時計史に残るショップウオッチの記念碑的作品ということだ。
『LowBEAT』No.1掲載(2012年4月発行)